最近読んだ洋書の中で、特に印象深かった一冊。
私は詩のような散文のような、意図的に組み込まれたスペースから言葉の気配を感じるような、静かで、だけど強さがある(唯一無二である)作品を好むのですが、この本を見つけたときはまさにそれだと直感し、飛びつきました。
語り手は30代前半、アーティスト、女性。
人生初の大きなプロジェクトを任され、生活のすべてがそのための作品制作へとつぎ込まれていく中で、見開き片側を note ノート 、もう片側を .txt テキスト とする巧みな構成で、機織り(織機は最古のコンピュータなんだそう)、プログラミグ、そしてそれらにまつわる先駆的女性たちを追いかけながら深堀していく。
そしてその過程で心奪われるもの、DNAや植物、アルゴリズム、テキストとテキスタイル(テキスタイルの語源はラテン語のテキストとのこと)などについて綴っていくんだけど、鋭い観察力と美しい表現力にただただ脱帽。
気になるところに付箋を貼っていったら、こんなになってしまった。
織機とコンピュータ、植物、季節、人間関係、日常的なことも感受性が豊かだと、こうも独創的になるのかと。
でも決してエキセントリックな表現ではなく、なるほどなと膝を打つことばかりで、ほんとに beautifully cleverly done。
たとえば植物についてこんなふうに書いているんだけど・・・・・
Plants don't have anything like a face to communicate with, but do so through chemical signals we cannot easily understand. In general, it is defficult for us to understand plants as a life form. They have neither brain nor heart. Do they act mechanically or intentionally? Are they active or passive beings?
「植物たちは脳も心も持ってない。活動は無意識に?それとも意図的に?」って、ほんとどっちなんでしょう。。。
誰に教えられるでもなくグングン成長して花を開いたかと思うと、夜になってその開いた花を閉じたり、植物組織・構造については今まで神秘的という言葉で片付けていたけど、確かに、植物とは能動的生き物なのか受動的生き物なのか、よくわからない。
ちなみに、語り手は植物研究のため日本へも訪れていて、そのときのことに結構な紙面をさいてます。
内容は主に植物のこと、あとは日本の伝統織物技法である絣について少しと、伊藤比呂美の「河原荒草」(英訳タイトルは "Wild Grass on the Riverbank")を引き合いに出したりしている。
洋書を読んでいると、不意に日本があらわれることが多々あり、そういえば前回ここに書いた ”Buy Yourself the F*cking Lilies” にも、友達をたずねて日本を訪れ箱根の温泉に行ったことなど、あれこれ書かれているのですよね。
"THREAD RIPPER"、まるでnoteという糸と.txtという糸を紡いでは解き紡いでは解き、それは決して完成することのない人生のようでもありこの世界のようでもあり、いやもしくは遺伝的連鎖のようだと言うべきか。。。
とても静かな本、それゆえ多くを秘める1冊。
文句なくFive Stars。
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