有難いことに今年は、お正月休みを少し長めに取らせていただきました。
その間は自宅に引きこもり、何もしないか本を読むか、ほとんどの時間を一人だけで過ごしました。
お休み中はどこにも行かなかったけど、読書がちょっとだけ旅代わりになっていたような気がします。
まずは ”A Horse at Night” by Amina Cain(この著者の代表作である ”Indelicacy” ものすごくいいです)で出発し、
道中は大満足の読書もあれば読み始め5分でその退屈さから船を漕ぎだした、読書とはいえないような読書もあり、大体はベッドに寝転がって、またはソファの上に丸くなり、でもたまに部屋から出てみると、「寒いけど、やっぱり外の空気は気持ちいいなあ」と、いつも以上に思いました。
でも、そう思えるのは帰る家があるからで、雲ひとつない青空を見上げながら1月1日に起きた地震のことを思いました。
今回の能登半島地震により被災された皆様に、心からお見舞い申し上げます。
一日も早く元の生活に戻れますよう、お祈り申し上げます。
そして、時間はあっという間に過ぎていき、いろいろなことを思いながら辿った読書の旅も終着点へとさしかかり、行き着いたのは ”MY YEAR OF REST AND RELAXATION” by Ottessa Moshfegh。
残念ながら My Year とまではいきませんが、言ってみれば私は、MY WEEKS OF REST AND RELAXATION 真っ只中だったわけで、最後はこの本だと読み始めました。
主人公は若くて頭が良くて可愛くて細くて裕福な家庭で育ったWASP(ホワイト・アングロ・プロテスタントの略)女性。
悩みなど何ひとつなく、幸せ街道まっしぐらと思いきや、実は今回も(前回の記事で取り上げた "BUY YOURSELF THE F*CKING LILIES" の著者も大丈夫そうにみえて大丈夫じゃなかった)そうではない。
できちゃった婚の両親から愛を受けずに育った主人公の心には深い闇があった。
両親だけでなく、元カレも友人も、どの人間関係をとっても健康的ではない。
もしこの話が、そういう負の人間関係に押し潰されていくものだったら、きっと私は大して惹かれることもなかっただろうと思うんだけど、この本の面白いところは彼女がそのすべてを冷静に受け止め、いちいち口には出さないけれど相手の習性をしっかりと見極めていて、その思考は一見とても歪んでいるようで実はものすごく的を得ていて、彼女の人間性にどんどん引き込まれていった。
Cold Bitch っぷりが、何だか妙によい。
コロンビア大学卒業後、美貌だけで雇われたアートギャラリーを首になり、雇用が自分の人生に価値を加えると真面目に信じてバカだったと、それに引き換え睡眠ほどプロダクティブなものはないと、充分眠れば自分は大丈夫なんじゃないだろうかと、生まれ変わってまったく新しい人間になれるんじゃないだろうかと、自分の人生をリセットするために1年間の冬眠生活に入ることにする。
自分を変えるために冬眠するというアイディアに納得がいかなかったり、眠り続けるための方法や過程について賛否両論、好き嫌いあると思うけど、とにかく彼女は決断し実行し、変わった。
この本は2018年出版ですが、ストーリーの設定は2000年から2001年までのニューヨーク。
エンディングが近づくにつれ、重くだるい時間の流れに生命力を感じる変化が主人公にあらわれてくる。
長期間活動を停止して眠り続けることにより、主人公が得ようとしたものは何だったのか、またこの本の中で著者が言いたかったことは何だったのか。
それらは最後、衝撃的なエンディングをむかえることで、なるほど、そういうことかと説得力を増し、ストーリーを完全なものに仕上げるのに成功したように思う。
私はこの本を読んでいて、文章の強さを何度となく感じたのだけど、個人的に特に印象に残ったのは、主人公が病魔(ガン)におかされた父親のベッドサイドで一緒に過ごしたときの描写。
私も数年前、家族を自宅で看取り、そのときのことと重なって、文章が皮膚に溶け込んでいくような凄みみたいなものを感じた。
その文章をここに引用できればいいんだけど、何しろ1ページ以上におよぶ長さなので。。。
”MY YEAR OF REST AND RELAXATION” by Ottessa Moshfegh
睡眠で人生をアジャストしようなんてバカげていると感じる読者もいるだろうし、エンディングを不謹慎だと感じる読者もいるだろうけど、私には必要な1冊となりました。
もしかしたらこの本、あなたの物に対する価値観をガラリと変えてしまうかもしれません。
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