こちら、妙に目を引くタイトル。
何の捻りもないですが、直訳して「男を知らない私」。
この本、最初の出版は1995年。
ネット情報によれば、その後1997年に英語版(原書はフランス語)が発売されるも、あまり売れ行きはよくなかったようです。
なのに、特に昨年ですか、爆発的に注目を浴びたのは。
一体どれくらい時が流れたのか、奥深い地下室の檻の中に閉じ込められた女性たち(39人)と女の子(1人)は、男性ガード監視の下、照明でつくり出される人工的な昼と夜を、他者に触れることも許されず、ただただ静かに過ごす。
そこでの1日が何時間サイクルなのか(果たして24時間なのか)、今どこにいるのか、なぜ捕らわれたのか、何も明かされないまま、ぼんやりと残る過去の記憶を抱きながら無数の時間だけが過ぎていく。
ところがある日、運命としかいいようのない偶然が重なり、彼女たちは檻から脱出、地下から地上の世界へと逃げ出すことに成功する。
果たして彼女たちは救われるのか。。。
この本、思わず目を背けたくなるようなホラーの連続で、ものすごく不条理極まりない物語です。
読み進めるにつれ、どんどん気持ちが重くなってきます。
しかも今、読者である私たちが生きる世の中だって相当不安定なものであり、もしかしたらこの物語は明日の我が身かもしれない。
「道理が・・・」なんて訴え、まったく通用しなくなるのです。
そんなことを考え出すと更に嫌ーーーな気持ちになってくるんですけど、が、しかし、そんな暗い内容にも関わらず、個人的にはこの作品世界にかなりのめり込まされました。
その一番の理由はこの物語の語り手である40人目のプリズナー、名前もない女の子の存在。
彼女は連れて来られたとき、彼女以外の39人全員が成人女性だったのに対し、ひとりだけ物心もつかない幼子だった。
彼女以外の女性たちは、子供がいたり働いていたりと捕らわれる前の記憶があるのに、彼女だけ、この地下の世界しか知らない。
本も、アリアも、真紅の薔薇も、目の覚めるようなブルーも、照りつける太陽も、愛も、何も知らない。
地下室で育った彼女は、普通を知らない。
そんな異常な生い立ちの中で形成された彼女の人格が、物語の中でどのように描かれていくかは、非常に興味深いものがありました。
最後に、この不気味な物語を紡いだ著者について少し。
Jacqueline Harpmanは1929年ベルギー生まれ、2012年没。
ユダヤ人である彼女は第二次世界大戦中、ナチス侵略により一家でカサブランカへ避難、終戦後に帰国。
1954年に執筆を始め、数々の文学賞を受賞、この”I Who Have Never Known Men”は彼女にとって初めて英訳された作品。
そしてまたHarpmanは、作家でもあり精神分析医でもありました。
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