出かけるときの準備で好きなパートが、持参する本を選んでバッグにそれをしまうとき。
選ぶ本は大概、バッグの大きさや行先、目的なんかに関連させ、この本は昨年の秋だったか神奈川県立美術館 葉山を訪れた際、目的地は海のすぐそばだから貝殻のカバーがちょうどいいかもしれない、という単純な発想で選び持参しました。

が、しかし、車中でカフェでと読み進めるも常にモヤモヤ感がつきまとい、どうも物語に集中できない。
というのもこの本、タイトルが”Outline”なら内容自体もOutlineで、語られている内容にいくら波風が立っててもその概要なので、何事も妙に淡々ときこえてしまい煮え切らないのです。
とはいえ作品的に悪いのかというとそうとも言いきれず、なんかでも結局、半分くらいまで読んだところでいったん栞を挟み寝かせていたところ、突然ハッと思い出したのです。
そういえば以前読んだAmina Cainの"A Horse at Night On Writing"に、Cuskが”Arlington Park”のなかで雨の描写だけに1ページ費やしていると書いてあったことを。
そうか、降り注ぐ雨について1ページ割く作家ならこの作風十分ありえる。
For five pages, before any of the main characters are introduced, we read (watch) a heavy spring shower in a suburb of London. The reader is steeped in the storm, in Arlington Park, before moving to the story.
Cuskは5ページに渡って、いずれのメインキャラクターをも登場させる前、ロンドン郊外を激しく打つ春のにわか雨について書き(観察し)、私たち読者は物語へと誘われる前、嵐でずぶ濡れにさせられると。
しかも1ページというのは私の記憶違いで5ページに渡って、でした。
これを思い出した途端”Outline”を本棚から引っ張り出し読了、そして更に"A Horse at Night On Writing"も最初から読み直してみたら、すっかり記憶から消えていたのですが、こんなことまで書いてあるではありませんか!
Part of what I like about Cusk's writing is that she writes extensively of emotions, but without being emotional.
なるほどそういうことなのか!
CainによるとCuskは、感情をあらわにせず多岐にわたって喜怒哀楽について書くと。
そしてそれがCainの、Cusk作品の好きなところでもあると。
言われてみればホントその通りで、淡々と感じられたのはアウトラインだからというより、感情的なことを感情的に語っていないからなのだ。
いや~、こうしてズバリ言い当てられ謎が解けると、読書の醍醐味をつくづく感じます。
自分という主観にはつくづく客観が必要だ。

こちら、Amina Cainの"A Horse at Night On Writing"は、パンデミック期間中に執筆された『書くこと』(また『読むこと』でもあると私は感じた)についての本。
『書くこと』に真摯に向き合い巡らされる思考はとても静かで深くて個人的で、それゆえとても惹かれ、また共感するところが多々ありました。
本のジャンル分けについてあまり詳しくないので、こういう本、エッセイと言えばいいのかジャーナルと言えばいいのかよく分からないのですが、『書くこと』について綴られる思い考えは、まるで彼女の内省世界の物語のようで、私的にはノンフィクションという名のフィクションのようだとも思いました。
そしてこの本、影響を受けた様々な本(あと映画や絵画なんかも)を引き合いに出し(実は"Outline"についても少しだけ言及している)『書くこと』についての思考を深めていくので、『書くこと』についての本であると同時に、彼女のおすすめ本紹介としても楽しめる要素が高いです。
私も今後読みたいと思う本をいくつも見つけることができました。
読書を続けていると、こんなふうに本が本を繋いで世界がどんどん広がっていき、これもまた読書の醍醐味のひとつであると感じます。
そんなわけでちなみに、この本、"A Horse at Night On Writing"へと繋いだ本は何だったかというと、この前に出版された彼女の小説"Indelicacy"でした。
"Indelicacy"は物語にももちろん引きつけられたのですけど、なんというか彼女の文章スタイルに魅了され、ただただこの作家の文章をもっと読みたくて続けて手に取りました。
削ぎ落とされた短いセンテンスは、静かで深くて個人的で、一文一文がズシンと重く心に響き、いつ何時も私の中に色濃く残る作品のひとつです。
こちらについては以前に少しだけ書いたので、よろしければ以下ご覧くださいませ。
今回もお読みいただきありがとうございました。
今後ともどうぞご贔屓に。
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