2019年出版のヤングアダルト小説、"PET" by Akwaeke Emezi。
以下、本裏表紙、内容紹介文(訳は私の意訳)から。
There are no monsters any more, or so the children in the city of Lucille have been taught. Jam and her best friend, Redemption, have grown up with this lesson all their lives. But when Jam meets Pet she begins to question what she's been told. Pet has come to hunt the evil lurking in Redemption's house...
もうモンスターなんて存在しない、そうLucilleの街の子供たちは教えられてきた。Jamも親友のRedemptionも、生まれてこのかたこの教えとともに成長してきた。だけど、JamはPetと出会って、これまで言われてきたことに疑問を持ち始める。PetはRedemptionの家に潜む悪をとらえるためやってきた...
表向きLucilleでは、過去の革命ですべての悪すなわちモンスターは排除され、誰もが平和に暮らしている、とされている。
が、果たして真実は。。。
目に見えないものを見る。
この本を読んで私は、改めてそのことについて考え直しました。
表面的なことではなく、その奥に潜んでいる真実。
たとえばモンスターと言われて思い描くその姿は、人間が勝手に作り上げたイメージに過ぎず、モンスターっぽい見た目じゃないからこの人はいい人、とは言えないことを我々は十分承知しているつもりである。
が、しかし、この本を読んでいると、自分が常日頃いかにイメージなどの表面的なことで判断をくだしているか、思い知らされる。
主人公はJamというトランスジェンダーの女の子。
口語、時に手話、そしてモンスター・ハントにあらわれた Pet とはテレパシーで意思疎通をはかる。
JamはRedemptionの家にモンスターが潜んでいることをPetからきかされ、大好きな親友を悪から救うため動きだす。
本当はハントなんてしたくないのに。
本当はこれまでと変わらない日常をただ送っていたいだけなのに。
だけど、友達を助けるためには目に見えないものを見なくちゃならない。
たぶん見ない方が楽かもしれない。
たぶん見てないから起きてないと言ってしまった方が簡単かもしれない。
たぶんそれで表向きはとり繕えるかもしれない。
が、しかし忘れてはならない。
真実は、我々人間の都合なんか気にしちゃいない。
真実は、我々人間の希望通り動いてくれるわけではない。
The truth does not change whether it is seen or unseen.
真実は目撃されるか目撃されないかでブレたりするようなものではない。
真実について。
アイデンティティについて。
ジャスティスについて。
人間という生き物について。
この本はそんなことについてもう一度考え直させてくれる本だと思います。
"PET" by Akwaeke Emezi
私は今回初めてこの著者の作品を読んで、期待以上の素晴らしさに驚きました。
最後の1行を読み終えたときは感動のあまり心の中でほんとにジーンという音が響きました。
自信を持って10点満点、お若い方々にも大人の方々にもおすすめしたい1冊です。
Akwaeke Emeziはナイジェリアで生まれ育ち、創作活動の範囲は文学だけにとどまらず、音楽、フィルム、ビジュアルアートと多岐にわたるそう。
またノンバイナリー(自身の性自認・性表現に男性・女性といった枠組みをあてはめようとしないセクシャリティ)とし、代名詞はthey/theirを使うとのこと。
もちろん小説のなかでは性別をあらわす代名詞を使用してますが、自身については、たとえばher workとかhis workではなく、their workとなるのでしょうか。
なるほどなあ。。。
またこの本には前編となる"BITTER"(BitterはJamのお母さん)があります。
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