変幻自在ブックス

At Midnight, I Become a Monster

ワグナー・ナンドール アートギャラリー 2024 春

燃えるような新緑、決して途切れることなく響き渡るうぐいすの鳴き声。

これが2024春、益子一泊二日一人旅の一番の印象です。

これまでの人生の中で、こんなに緑が目に染みたのも、こんなにうぐいすの鳴き声をきいたのも、生まれて初めてです。

ふだん新宿御苑などへ行き、緑に触れた気になっていたけど、真の緑とはその程度のものではないと、この旅で思い知らされました。

うぐいすさんたち、ほんと1日中惜しみもなく美声を披露していて、どこを歩いていても、宿の部屋の中でさえ鳴き声が響き渡っていて、なんだか彼らと一緒に旅していたような気分です。

 

今回の旅の目的地のひとつ、ワグナー・ナンドール アートギャラリーは、これが三度目の訪問でした。

そしてここでも、生い茂る緑の生命力とその輝きに圧倒されました。

 

哲学の庭

 

ワグナー・ナンドール アートギャラリーは、ハンガリー出身の彫刻家ワグナー・ナンドールさんと奥様のちよさんによる邸宅美術館。

益子の小高い丘の上に建ち、春と秋にそれぞれ1カ月間公開されます。

過去2回の秋の訪問も記事にしているので、ずっとこちらを読んでくださってる方々(本当にありがとうございます)にはまたかと思われてしまうかもしれないけど、何度言っても言い足りないことがあります。

それは、ナンドールさんは生涯を通して常にその国の真の利益と、自分の周りの人々の幸せの為に努力を惜しまなかったということ。

そしてその為に全エネルギーを投じて仕事に没頭し、それ以外の考えで制作した作品は一点もないということ。

 

モーゼ

 

今回の訪問で特に印象に残った作品は、ワグナー・ナンドール アートギャラリー春季展のDMにも使われていた「嘆き」という悲しみに打ちひしがれる女性の作品。

これは若くしてこの世を去った息子の死を嘆き悲しむ母親からの依頼で制作された墓石だそうです。

墓石を作ってくれと頼まれて、亡くなった息子さんの在りし日の姿、ではなく、嘆き悲しむ母の姿を見事に表現してしまったナンドールさん、改めて凄いなと思いました。

ナンドールさんがどれほど母の悲しみに心を寄せたか、その想いの深さをこの作品があらわしているように感じます。

 

嘆き

 

今回、ギャラリーの方々から本のおすすめをいただき、予期せぬ本との出会いもありました。

ナンドールさんとちよさんが生活していたお部屋での、暫しの読書タイムは、格別に贅沢な一時となりました。

 

 

① 「白鳥のいる場所」下村徹

障がい者支援施設「サニーガーデン」で繰り広げられる日常の物語。

そういえば私、その内側のことを何も知らないんですね。

障がい者支援施設は閉ざされた世界ではなく、私たちがもっと知っていなくてはならない世界であり、この本の中にはその、もっと知っていなくてはならないことが書かれている、と、そんなふうに思いました。

ひとつひとつの物語が数ページでまとめられているので、ちょっとした合間でも読みやすい、気軽に手に取れる一冊です。

ちなみに下村徹さんは「ドナウの叫び ワグナー・ナンドール物語」の著者でもあります。

非常に読み応えがあり、ワグナー・ナンドールという日本人の人生に関心ある方々、おすすめです。

 

 

② 「風がすれちがう」中島小春

題材は日常。

ギャラリーのかたの感想は、まるで小津映画の一場面のよう、ドラマがある。

 

ありがたいことにこちらの五行歌集は一冊いただいたので、帰宅後繰り返しページをめくりました。

この中におさめられたすべての歌に、歌った方の素直な心の動き・人柄があらわれていて、私は全部好きです。

どんなにすばらしいかは作品に触れていただくのが一番なので、、、以下この歌集の一番最初と最後におさめられた作品です。

 

北国に

生まれたのも真冬

早朝の雪の気配に

今 生まれ落ちたような

胸の高鳴り

 

色のない月から見た地球(ほし)は

水と光をたたえて

信頼に輝いていた

いとしい地球を

裏切ってはならない

 

③ 「図録 東かがわを描く」荒田秀也

装丁家また画家である荒田秀也さんが20年間通い、描き続けた、香川県東かがわのスケッチ作品展の図論。

 

 

こちらはワグナー・ナンドール アートギャラリーで販売していたものを購入しました。

というのも今回、敷地内にある五角堂ギャラリーで行われていた併設展が、この本の著者・荒田秀也さん(上記の五行歌集、中島小春さんのお兄さん)の「道のア・ラ・カルト」でした。

荒田さんは心のふるさと「源郷」探しの旅を続け、モンゴルに草の道、東かがわ市引田に海の道というふたつのルーツを見出したそうです。

併設展では草の道、モンゴル草原の星空(腕時計の時間が読めるほどの明るさ)を描いた作品など、吸い込まれるような色彩で、不思議な雰囲気を漂わせる作品の数々が展示されていました。

この図録は海の道のほうをまとめたもので、その中で荒田さんが引田のことを、「風景と人間がバランスよく生活している場所」とおっしゃっていて、それがとても印象に残っています。

引田は瀬戸内海に面する香川県の一番東端に位置し、古代から陸上・海上交通の要地として栄えた港町とのこと。

この本と出会って、虫籠窓や切子格子を備えた古い建物が残る引田という場所に興味が湧きました。

そういえば偶然お詣りした水道橋のこんぴらさんは、香川県にある金刀比羅宮の東京分社だし、あのとき香川県とご縁のようなものが生まれたのかもしれません。

 

hengenjizai.work

 

中島小春さんの五行歌集に出会ってから、なんでも五行でまとめようとしている自分がいます。

以下は、ワグナー・ナンドール アートギャラリーで過ごした時間を思い出して歌ってみました。

 

とっても静かなところですねと声をかけられ

そうですねとこたえた

いや待てよ

鳥が風が木が花が

人間以外の生命が とっても賑やか

 

池の水面も賑やか

 

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