こちら、先月訪れた詩の古書市にて出会った1冊。
谷川俊太郎『旅』英語版。

もとは1968年に求龍堂から出版され、この英語版はアメリカで初めて刊行された谷川作品にあたるそうです。
背表紙にタイトルも著者名もなく、これはなんだと棚からひっぱり出したらこちらの本だったというわけです。
この詩集はとても静かながら、言葉がまっすぐ心に響いてくる作品だと思いました。
一言一言は何気ないものだったりするけど、それらは非常に的確で、言葉選びに一体どれほどの時間が費やされているのか、こちらが見落としていたものをすっと言い当ててしまうのですよ、谷川さんの詩は。
普通の言葉の中に、本質をつく鋭さがあり、一語一語噛みしめるようにページをめくっていると、こちらの思考も動き出してきて、個人的に本書、ブレインストーミング効果もありました。
この詩集の中で特に印象に残ったのは、言葉の達人であるはずの谷川さんが繰り返し"silence"という言葉を使っていること。
たとえばこれとかなんですけど。
It is useless to begin with silence
and grope for words.
If I am to achieve silence
I must begin with words.
以下は英訳から受け取った印象を私なりの日本語にしたもの。
まず沈黙して、それから言葉を探すのでは使い物にならない。
もし沈黙を極めるのなら、まずその前に言葉がなくてはならない。
言われてみれば私たち、沈黙してるときほど言葉を意識しているような気がします。
言葉がなくて沈黙してるのではなく、様々な言葉が行き交った末に沈黙するというか。
私はこれを読んで思わずうなってしまったんですけど、こういうこと、気づけそうで気づけない、そして言葉にできそうでできないような気がします。
研ぎ澄まされた眼差しの深さを感じます。
ただ25篇の詩と、詩人と訳者について必要最低限の解説と、最後に、この本について数行記されているだけの本書は、1975年にPress-22のJohn Laursenによってデザイン・出版され、このソフトカバー・エディションが500冊、そして布装丁エディション(シリアルナンバーと著者・訳者のサイン入り)が100冊出版されたそうです。
そして何もないのは背表紙だけじゃなく、裏表紙もこんな感じ。
ついでに目次もない。

偶然にも、もうすぐ谷川さんが亡くなって1年、この詩集との出会いも何かのご縁だったのかもしれません。
これは詩であると同時に、谷川さんのノンフィクションでした。
谷川さん、言葉を、ありがとう!

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