だいぶ久しぶりの更新になってしまいました。
何かの理由として「忙しい」という言葉を使うのはあまり好まないのですが、何やらずっと忙しく少々疲れてきたので、こちら少しお休みしていました。
とはいえ、隙間時間や移動時間の利用により思いのほか読書時間は充実していて、おかげでさほどストレスを感じることなく過ごせています。
と、そんな中、特によかったのがこの本。
”TOKYO UENO STATION”は柳美里さんの「JR上野駅公園口」英語版(訳 モーガン・ジャイルスさん)。
2020年にNational Book Award(全米図書賞)を受賞しました。
日本では2014年に単行本が出版されているので、ホント今さらですけど、これがものすごくよかったです。
よすぎて言葉を失いました。
あらすじは検索すればいくらでも出てくるので、ここでは割愛しますが、一人の男性の生涯を通して浮き彫りになる日本社会の光と闇を、この本は見事に描き上げていて、私は文章から文学の力を感じました。
そして驚くべきことにこの洋書、超読みやすいです。
一文一文が短く、文法も単語もシンプルです。
もし分からない単語があったとしても、舞台が日本なので、前後の文章から意味を想像しやすいのもよいです。
文法といえば個人的に気になったのが、must/would +過去分詞を使った表現が多く出てくること。
must +過去分詞は、「~に違いなかった」とかなり高い確率でそうだったことを意味しますが、それでも「~だった」という断定ではなく、なんでしょう、、、人生とは「~に違いなかった」とか「〜だっただろう」とか、「〜かも」みたいなことの繰り返しなのかなあ、、、なんて思ったりしました。
この本の中で描かれる世界はとても暗いもの。
そしてその中に思わずハッとさせられるような文学的美しさに満ちた文章が散りばめられていて、それが余計に孤独や絶望という救いようのない悲しみを際立たせているように感じました。
主人公は実の母親から、とても信じられない、酷い言葉をかけられ(しかし母親に悪意はなかったし、主人公もそれで母親を恨んだりしなかった)、それが生涯、彼の頭の中にこびりついていました。
You never did have any luck, did you?
これがその言葉です。
もし母親が、わが子の突然の死で悲しみに打ちひしがれる主人公に、運がない(しかもnever did haveと強調してる)などと言うのではなく、もっと思いやりに溢れた肯定的な言葉をかけていたら、彼の人生は少しだけ違うものになっていたかもしれません。
と、ここでもやはり「~かも」。
Where the sky and sea met, it was smooth as steel, but where the sea and sand met, the waves broke white and tiny foam bubbled up, the shells and seaweed and sand that had just been engulfed now gasping for breath.
Occasionally a breeze came in from the sea, rustling the branches of the pines, bringing forth the smell of the needles heavy with pods, stroking my cheek like a warm sigh.
上記は、この本の中で私が最も好きなところ。
時折やって来た海風のことを「あたたかな吐息のように頬を撫でる」だなんて。。。
孤独と絶望の人生を生きた主人公か、それでもなお他者の存在や生を意識していたように感じられ、人間という寂しい生き物の姿を見たような気がしました。
本書、環境、年齢、性別、あらゆることを超え、非常に感情移入させられる作品です。
もしかしたら人生を見つめ直すきっかけになるかもしれません。
■ TOKYO UENO STATION by Yu Miri / Morgan Giles (TRN)
■ JR上野駅公園口 柳美里(著)
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